孤独の豆かん

※ 2007年06月27日バックナンバー



はい、そろそろ良い感じに孤独のグルメが似合う歳になってきた中年間近のyamotoです。皆様この初夏っていうか夏だよねな日々いかがお過ごしでしょうか。

あんまりに暑いのでこちらはクーラーなど導入しながらに、涼しげな食べ物を求めて、コンビニまで歩いていった次第にございます。



とりあえず野菜分不足につき、食物繊維が取れる美味しい朝ご飯と評判のシリアル、牛乳(現代人にありがちなビタミンとっときゃ何とかなる風味)を手に取り、さて、目的にデザートを探してみんとす。



「男のカフェラテ……こんなのもあるのか」

最近のスイーツはどうやら男性にも発信されているようだった。

男性向けスイーツって、考えると少しいやらしいですね?


そんなことを思いながら、適当に面白そうなモノを手にとってはかごに入れていく。

そこではた、と目に付いたのは豆かん。豆と寒天の入った古来のスイーツ。書かれている文字は楷書体。

まさに「男のくせに俺が食えないのか?」というたたずまい。鉄製の缶がニヒルに笑いかけていた。

いいだろう。貴様、後悔するなよ。


そんなわけで豆かんもかごの中へ。



「うわあ、なんだか凄いことになってきちゃったぞ」


かごいっぱいに詰め込まれたスイーツたち。
レシートの額は見なかったことにした。



そして帰宅。とりあえず、ご飯と食後のデザートメニューを考える。


冷蔵庫の中をチェック。

うん、ざっと1週間分はある野菜達。
そして買ってきたばかりのスイーツと、雪印のミルク。
まさに完璧と言える布陣。


そんなわけでそれらに目もくれず、買ってきたばかりの食物繊維たっぷりなシリアルをいただくことにした。



開けてびっくり。


「……ドックフード?」


色、つや、形。実にペットショップにならんでも十分通じる見た目。試しに食べてみたが。


ざり……ざり……ざり。


何この砂を噛むような食感。ウマくない! 決してウマくないぞ!

健康と美味は逆方向、そんなことを学んでしまいました。青汁が道理で人気な訳だねハハ!

そんなわけで苦行の後のデザート、豆かんです。

ぱこっと缶を開けると中から顔を出す黒ずんだ豆と、真っ白くて見事にキューブ状の寒天が飛び出す。

それをちょっとした器に入れ、トロリと濃密かつアダルティな輝きをした黒蜜をまぶす。


実にこう──男。はっきりした色合い以外を拒絶するカラーリングと、その中で絡み合ううねりが彩る男のデザートであった。


そんなわけで早速実食。



これは。


実に。


甘い。



何が甘いとかではない。

甘み、と書いてある看板をぶん投げつけてくるような甘みだ。



実に直球。そういうの嫌いじゃないぜ。




ほんとは結構苦手なのだが、ここで折れると負けた気がするので、勝つためにこらえる。

しゃき、しゃきと、心地よい歯ごたえの寒天と、舌でつぶすとざらついた食感を返す豆。


ああそうだ。思い出してきた。



俺、この二つ、子供の時嫌いだったんだ。
この、すぐ壊れてしまう寒天のあっけなさと、ざりざりと舌に絡み付く後味の悪い豆が。



かつての自分を思い出しながら、喰う。喰う。喰う。


食い終わった後に到来したモノは、勝利感でもなく、また、空回りという敗北感でもなく。


受け入れてしまえる程に、年を重ねた自分への諦念ともいうべきものだった。


まあ、あれですね。歳食うと、大根の漬け物とかがやたら旨く感じるっていう。



そんなわけでちょっとナイスミドルに近づいたyamotoでした。

そう言うわけで今回はこれに……




「オチは?」

「久々にでましたね脳内金髪少女メリー(18禁)。どこのエロサイトでも着ないそんなすけすけ服とは読者サービスを心得ているじゃないか」

「速やかかつ派手に死んで」

「はいすいませんでした、ちょっと疲れてるんです」

ニート疲れ?」

「心が摩耗していくよママ! ニートだからって何もしないといろいろ摩耗するんだよ!」

「典型的A型ね。現状維持に漬かりながら、行動の指針を求める」

「冷静に分析すんな。つか、ワンピースで白とかなら分かるけど、なんで黒なのかと聞きたい」

「室内だから。それで、嫌いなものをわざと食べて楽しむ変態的行為は終わったの?」

「いや、嫌いってことを忘れてましたが何か。はっはっは」

「ミドル痴呆症」

「嫌な恐怖を煽る単語出すんじゃありません! これ見てる人の何割かに当てはまると思うし!」

「笑ってごまかせば良いと思うわよ。中年らしく」

「最後の一言で思い切り敵を作りまくってるぞお前。そのまま拉致されて一夏の思い出(凌辱ゲー風味)をしてくるがいい」

「一夏の思い出(猟奇殺人事件)をエンジョイしたいのね」

「ひいいいい、お前本気ですね!? っていうか最近部屋の隅っこにおいてある拳銃と刀はなんですかと聞きたい」

「カモフラージュよ」

「それ以上に凶悪なモンかくしてやがんのかー!? まあいい。で、とりあえず豆かんは多分、我慢すれば食えるぐらいのものになっちまったようだよ、はっはっは」

豆かんはもう無事でいられないのね」

「獲物が増えた肉食獣扱いすんな」

「エロチシズム溢れる表現をする変態を見て、他に何を言えと?」

「えーと……どの辺が?」

「とろりと濃密かつアダルティで淑女の太ももに絡み付いた一滴のブランデーのように艶めかしい黒蜜」

「アップグレード返しすんな!? ……って、お前、なんで俺の買ってきたスイーツを喰ってるんですか。しかも勝手に」

豆かんを食べていたから」

「欲しかったんかい、あれ」

「別に? ごちそうさま」

「一口喰って残すなよ、行儀悪いぞお前。まあいいか、まだいっぱいあるしなー」

「捨てたわ」

「え?」

「どれも口に合わなかったから。合成素材はやはりダメね。残骸ならそこにあるから、好きに食べれば?」

「もったいないことしてんじゃねええー!!!?」




そんなわけで、一口喰って捨てるような悪いメリーには、ぎっしり詰まった豆かんをぶちまける勢いで、激しく缶をクラッシュしつつ、今回はこれにて。



歳と共に、嗜好ってのは変わるっていうよりも広がってるんですかね?